彼が私にくれたモノ 


 『Service〜奉仕〜』でも書いた失恋話の何年か前にも、
別の人に振られてまして・・・。つくづくモテナい女でございます(汗)
その時の人は『生きてこそ』で書いたような自分に近いタイプの人ではなく、
まるで逆。彼自身の事も家族の話しも良くするし、弟さんとも仲良しで、
男女共友人が多い、明るく人気者タイプ。
 キチンとした仕事に長く勤めていて、隠し事や影の部分を感じさせない
好青年。光の方向へと、ただまっすぐ伸び伸び育ってきたような人。
顔は、何と言ってもB'zの稲葉さんに似ていて、ワイルドで男らしい。
(サングラスの時はスガシカオかな?)当然モテるだろうし、
優しくて女慣れしているし、面白くて飽きない。いつも堂々としているし、
明るく大きな声でハキハキ話すので、グイッと彼の光の世界へと
連れて行かれる。私も「そっちの世界」の一人に仲間入りしたような気持ちで、
嬉しかった。

 彼が私のどこを好きになってくれたのか、わからなかったけど、
気が合ったのは確か。私の仕事の事、家族の話、核心を衝くような事は、
全く聞いてこなかった。私から自然に話してくるのを、
待っていてくれていたのかもしれない。それとも私の内側には
全く興味がなかっただけなのかも・・・。
とにかく、その時の私にはそれで良かった。本当の自分、避けられない現実を
彼といる時は忘れられたから。
 いつかは終わるような恋愛。でもそれは今ではない。
遊ばれてる?・・・そうじゃなくて、私も一緒に遊んでいたから。
彼と一緒にいる時は生まれ変わったみたいに別人になれた。

 彼が私に買ってくれた物は、
洋服、帽子、バッグ、ヘアカタログ、派手な下着、あゆのCD・・・etc
大した事ない男が、キレイな女性を連れて歩きたくなる気持ちが良くわかる。
私達はその逆。
彼はそこにいるだけで、『絵』になったし、私の写真心を捕えるイイ被写体
だったので、隣でよくシャッターチャンスを狙っては、
カメラを意識させないように
「そのまま!そのまま!!」
と、いろんなアングルから撮っていた。

 
 そんなカッコイイ彼に釣り合いたくて、頑張ってメイクの練習をした。
短くて少なく下に下がっているまつ毛を、くるんと無理矢理上げて、
ランコムのスーパーボリュームマスカラで、何度も重ね塗りして、
パッチリとあゆのような目に・・・はならなかったけど、
彼好みに少しでも近付きたくて、ヘアカタを持って、彼が希望する髪型に
当時のカリスマ美容師に切ってもらったり、
パンツ見えそうなマイクロミニのスカートを履いて、
デートはいつもショッピング。
映画や美術館なんて、一回も一緒に行った事なかった。
『プリティーウーマン』と、言うよりは、昔昼の番組でよくやっていた
『亭主改造計画』の逆バージョン。
 私は昔から体型が全く変わらないので、滅多に新しい服を
買う事はなかったけど、好きなのはカジュアルで着心地がいい物。
でも彼が選ぶ物は、大人っぽくて、見た目華やかで、
洗濯機では洗えないような物だったりした。

 付き合い始める前、
「もっと良くなれると思うよ!」
と言われた。自分が嫌いだった私は、彼について行けば、
言う通りにしていれば、自分は良くなれるのかもしれない。
憧れと期待でいっぱいだった。彼は私のように頑張っている様子なしで、
そのままそこにいるだけで、存在感があった。きっと小さい頃から周りの人に
愛されて、人気者だったはず。自分に自信を持っているし、
気持ちいいくらいの大きな声は、曲がった事やウソが嫌いな正直者。
いつも周りの目を気にして、最低限『普通』でいられる事を目指していた私には
その『自信』が羨ましく感じた。何よりもそんな彼が魅力的だった。
大好きな彼の言うままの服やメイクや髪型にする女のコを、
『媚びてる』って言うのかな?
その時の私は、ただただ彼に近付きたかった。隣が似合う人でいたかった。
彼といた時は、女性らしい自分を実感する。女として生れて良かった、と。

 付き合ってから一年、彼と過ごす土日と、それ以外の時間の過ごし方には、
ギャップがあった。内面を磨く事に興味を持ち、
いろんなセミナーに参加するようになった私は、マッサージの勉強を通して、
心と体の関係を深く知りたくなり始めた。やっとヤリタイコトが見つかって、
学校も決めたので、彼の体で練習しょうと思い、電話したら、
その事を話す前に彼の方から切り出された。
「ごめん。もう今まで通り会えない。・・・好きな人ができた」
 その時の彼の声色は、未だにハッキリ覚えている。
いつもは大きな声で自信たっぷりに話すくせに、
初めて済まなそうな小さな声だったので、別人のように小さい人に感じた。

 ・・・何だったんだろう、今までのコトって。
今までの私って、彼にとって何だったんだろう・・・。
誕生日は山梨で過ごすって・・・
夏は花火大会、浴衣着て見に行くって・・・
あの約束は??
聞きたいけど、聞きたくない。
ケンカも倦怠期も、そんな兆候も全くなく、ただ突然バッサリと縁を切られた。
・・・いや、そう思っているのは私だけで、彼は少しずつ冷めてきていたのかな。
だとしたらいつ頃から??
一週間前までラブラブだったのに、アレは何だったの?
・・・楽しかった思い出が歪んで見え出した。

でも、その新しい彼女の話を聞いたら、もう自分の出る幕ではなかった。
これ以上一緒にいても、彼の心はここにはない。
腹立たしさと、諦めとか、ぐしゃぐしゃでもう嫌になった。
ポイッと捨てられたゴミの気持ちはきっと
"私は私であることに変わりはないのに、持ち主の心変わり一つで、
ただのいらないモノになっただけ"
昨日まで使われていた物でも、そう・・全くその通り。

 その後の私は、空っぽの心は女友達とのお喋りで埋めていた。
私より人生経験豊富な友人は、冷静に分析して
「多分、もっと器用な人なら二股かけて、
段々フェイドアウトしていくんじゃない?」
彼は二股をかける前に、ケジメとして片方を切った。
もう片方に100%行けるように・・・。
「少しでも結婚の可能性がある方に移ったのかもね。」
そう言う彼女は遠距離恋愛中で、本当は側にいたいけど、
仕事をしている彼が好きだから今は見守っている、と話していた。

 確かに私は家庭的じゃないし、旅行も仕事も趣味もまだまだ沢山やりたいことがあった。大人な彼女と話しているうちに、ぐしゃぐしゃだった気持ちが
整理されていったが、頭でわかっているつもりでも、ハートがついて来ない。
なんとその日は、失恋した私に付き合ってくれて、
14時間二人で夜通し喋りっぱなしだった。
それなのに、とても不思議な事に、少しも喉が渇かなかった。
いや、渇いてたはずなのに、水は喉を通っていかない。欲しがらなかった。
お腹もグーグー鳴っているのに、食べ物が入らない。人前では強がって
気を張っていたせいか、涙も出ない、弱音も吐けない。
五感が閉じてしまい、感情がマヒしていた。夜も眠くならなかったので、
友達との遊びで、予定をビッチリ埋めていた。
2〜3日間、プチ自暴自棄で、水も食事も睡眠も一切取らなかった。
いや、取れなかった。
体の本能的な欲求は、『ゴミ』には必要ない、と自覚していたから。
人間、水を飲まなくてもオシッコは出るんだ、と冷静に発見したりしていた。

 友達との待ち合わせに時間があったので、
たまたま目に留まったリフレクソロジーのお店に入ってみようと思った。
これから学ぼうとしていた割には、受けた事はなく、
それが初めての体験だった。
 まずフットバスから始まり、
「御御(おみ)足(あし)、失礼します。」と、
担当の方は自分の膝の上に、私の濡れた足を置き、タオルで包みながら
しっかり拭き取ってくれた。他人に自分の足をこんなに丁寧に扱ってもらったのは
初めてで、「いいのかな?」という気持ちだった。いくらお金を払ったとはいえ、
物凄く恐縮してしまった。私は他人にこんなに大切に扱ってもらって
いいのだろうか?・・・
そんな考えは最初のうちだけで、マッサージの気持ち良さに、
体も自然に喜んでいた。
 

 そしたら、急に感覚が戻ってきて、張り詰めていたモノが緩み始めた。
私をゴミだと思っていたのは自分だけで、目の前にいるこの人は
そんな風に思っていない。その事に気付いたら、自然に涙が出た。
セラピストさんがいる前で、抑えきれず泣き続けた。
人前で、しかもマッサージされながら泣くなんて、恥ずかし過ぎる、
そんなことわかっているのに、止まらない。
あれだけ本能的な欲求をコントロールできていたのに、
この時の涙だけは止められなかった。

 セラピストさんは、絶対に気付いていたはずだけど、何も聞かず
そのまま続けてくれた。まだ若くて新人っぽい女のコで、
最初は困ったような感じだったけど、視線を合わさないようにしながらも、
自分のやることにただ集中している様子だった。こなれた接客よりも、
その初々しい一生懸命さに私は癒されていた。

 数日寝てなかったせいか、いつの間にか眠りに落ちていた。
他のお客様がいなかったからか、施術後しばらくの間、
寝かせてくれていたようだった。
「いかがでしたか?」
と、笑顔で起こされた時には、
さっきまでの自分を洗い流したようにスッキリと目が覚めていた。

自分で自分を大切にすることは、難しい。
私みたいな人を、心も体も癒せる仕事ってスゴイ!
自分の目指していく方向は間違えていないと思った。
言葉で何時間、慰められても、一時間のマッサージには勝てない。
『人を癒す』というよりは、いつの間にか自然に癒されてしまっていた・・・
そんな感覚を、いつまでも忘れないようにしたいと思った。

 それからは、美味しい物を食べたり、美容室に行ったり、気分転換として、
五感を満たすことを積極的にして、元気になっていった。
そして軽い気持ちでヒーリングを受けてみることにした。
リフレのセラピストの前で思い切り泣けたように、
全く他人の方が本音も弱さも、素直にぶつけられると思ったから。

 ヒーラーの人に全てを話すと、
「それはあなたの問題ではなく、彼の問題よ。
だから自分をもっと自由にしてあげて。彼に気に入られるように努力することは、
悪い事ではないけど、自分を小さく見せて、
見せかけの小ささを気に入られても、それは本当のあなたじゃないから、
いつかは別れが来るわよね。あなたが本来のあなたらしく、
自由で奔放で、活き活きした輝きを放っていたら、
本当のパートナーがあなたを見つけやすくなるのよ。
・・・・・・では、ヒーリングを始めていきます。
目を閉じて、10年後の自分を想像してみて。
どんな表情で、何色の服を着ていて、誰と一緒にいる?
手には何を持っている?髪型は?」

私はすごく不思議だけど、鮮明に想像できた。というか目に浮かんできた。
「髪はロングで、薄―いピンク色の優しい色合いのエレガントなスーツを着て、
手にはクリアケース、隣には一緒に仕事をしているような若い女のコを
連れている。」
「その未来のあなたは、今のあなたを見て、何て言っている?」
私にはハッキリ浮かんで見えた。迷わず、
「指差して笑ってる!何やってんの?って。
とても小さい事のように、ゲラゲラ笑われちゃってる・・・。」
「そしたらこれからどうしたらいいか、未来のあなたに聞いてみて。」
「"あなたはいずれ、こうなるんだから、その為には今興味あることや、
やりたいことをやって、沢山人に会った方がいい"」
希望や妄想、作り事・・・だとしても、自分の口からハッキリ言えたことは事実。
答えは自分の中にあった。

 彼が私にくれた物、化粧品、ヘアカタログ、派手な下着、
マイクロミニのスカート達はいらなくなった。でも最後に彼からもらったモノが
あるから、もう大丈夫。

一年間、違う自分になることで、本当の自分に気付けた。
付き合う前、「もっと良くなれると思うよ。」ってあの言葉は、本当だったんだね!