この写真を見て、作ってみたお話です)



もう人間でいることには、うんざりだ。
  私の話なんて、誰も聞こうとしてくれない。
  私には、昔の思い出話しかないのに・・・
  未来に期待することは、一つもない。
  何も話したくない。
  聞きたくない。
  見たくない。
  どうか、神様。
  人間以外の何かになれますように・・・。


「ママー!!あのおばあちゃん、毎日あのベンチに座って、
動かないよ!眠ってるの?生きてる?死んでる?」
「マー君、あのおばあちゃんはね、私達にとっては"知らない人"
だけどね、どこかの誰かにとっては"大切な人"なの。」
「大切な人?」
「うん。きっと誰かにとっては"お母さん"だし、
奥さんでもあるはず。もっと昔々は、誰かにとっての恋人であり、
ご両親にとっては、かわいい子供だったはず。
・・・でも今はね、空気になっちゃった。」
「空気?」
「うん。もしあの人に子供や孫達がいたとしたら、あの人なしでは生きてなかったはずなのに、いつの間にかそんなこと、誰も考えなくなってる。」
「家族なのに、忘れちゃうの?」
「空気のことを毎日考えないのと同じ。私達は空気があるから、ほらこうやって、息ができて生きてるけど、そんなのあって当たり前で、考えないでしょ?」
「うん。考えたことない。」
「それよりも、もっと目の前の、目に見えることが大切になっちゃう。それも悪い事じゃないけど・・・。」
「空気のことなんて、普通かんがえないもん!あって当たり前でしょ?」
「そう?ママはたま〜に考えるよ。例えばママが吸った空気、
吐くと息に変わるでしょ?ママの中を通り抜けて出て行く空気・・・
細かーく、小さくなってそばにいるマー君に届いて、
マー君がその空気を吸っていたりするのよ。空気はもともとあるようで、
そこにいる人達で作ってたりする。」
「作れる?」
「マー君も、ママや仲良しのお友達と一緒にいる時と、全然知らない人達の中にいる時では、気持ちは変わるでしょ?」
「うん。あの人好き、とか嫌いとかね。」
「気持ち良く息できる時と、ドキドキ緊張する時みたいにね。」
「どうやって空気を作れるの?」
「みんな自然に作ってるものだけどね。例えば、イライラ・プリプリ怒って、
カッカしている時は呼吸が荒くなって、吸う息が多くなる。
"もっとちょうだい!""まだ足りない!"って、求めてばかりいる。
いっぱい吸いたくなって、肩が上がって苦しくなる。
そばにそんな子がいたら、心配になっちゃうよね。
でも笑ってる時は、"アハハハッ"って力が抜けて、息をいっぱい吐く。
もう十分、満足、幸せ!だから分けてあげたいって、
息がドンドン体から出て行く。」
「泣いてる時は?」
「"エ〜ンエ〜ン ヒックヒック"って、鼻すすったりして、吸い込む。
欲しい欲しい!って、空気ドンドン取り入れていくよ。
空気の量は変わらないのに、欲しがったり、出しがったり、自分の中だけで変わっていく。」
「普通の時は?泣いたり笑ったりしてない、何でもない時。」
「ただ吸って吐いて、息してる。生きてる・・・その状態に感謝できたら、
いいね!」
「何にもない時に?」
「何にもないんじゃなくって、息できてる、"生きてる"じゃない?
あ、鼻が詰まってる時はそれどころじゃないけど・・・」
「鼻づまりが治ったら、感謝?」
「う〜ん・・・詰まりがじわじわ取れた時は、"は〜、楽になった!"って、
実感するのに、もともと楽に息できてる時は、何も思わないのは不思議。
空気はただただ、与えてくれるだけなのに、人間は欲張りだね。」
「一人で遊んでる時も、感謝?」
「・・・ママはね、お仕事でマー君と一緒にいられない時も、
マー君に"幸せビーム"を送っているからね。」
「幸せビーム?」
「目に見えなくても、マー君はいつもそれを受け取っているから、
そばにママがいなくても、安心してね。」
「寂しいよ。」
「いつもそばにいられたら、時間もお金もいっぱいかけて、
やってあげたいこと、たっくさんあるよ。それができないから、
ママと会えない間に、マー君だけでどれだけ"幸せ"を見つけられるか、
ママと競争だよ!
ママもマー君に話すために、探すから二人で別々の場所で、宝探しだ!
今日、こんなことあったー!って、ママに教えてね。
マー君の幸せが、ママの幸せだから。」




「母さん!!探したよ!こんな遠くまで、一人で・・・。危ないよ!」
「・・・」
「悪かった。施設に入れる話しなんかして。やっぱり今まで通り、
家で一緒に暮らそう。だからもう家出なんて・・・」
「ありがとう。いいんだよ、もうその言葉だけで十分。施設に入るよ。」
「え!?」
「・・・宝探し、してみようかな。アンタもたまには会いに来て、
話聞かせてちょうだい。正道(まさみち)。」