50万といえば・・・


  トルコで50万盗まれて、ピーピー騒いだ私もいれば、
60万ものトルコ絨毯をぼったくりだとわかっていても、
イラン人から快く買う人もいたりする。

 実は私にはもう一つ、大金にまつわる出来事が日本でありました。
それは、オーラソーマ(カラーセラピー)の勉強で教室に通っていた時、
その部屋にあった50万もの大理石のテーブルを割ってしまったこと・・・。

 その教室は、ご夫婦で先生をされていて、
その日はコース終了後に、先生にリーディングをしてもらおうと、
私の友達を連れて行った時。

 先生達は忙しそうで、手が離せない様子だったので
 「ちょっと、そこで座って待ってて」と言われて、
いつも休憩時間に座るそのソファーに
いつも通りに座るだけで良かったのに・・・
 なぜかその時に限って、テーブルとソファーの距離が近い気がして、
テーブルを手前に引いてしまい・・・、
すると、土台の足と物を乗せる上の部分はくっ付いていなくて、
大理石は上に乗っかっていただけだったので、
バランスを崩し、落ちて、床で粉々になってしまったのだ!

 ご主人の方の先生には、
 「あぁ〜あー・・・」
と、露骨にがっかりした顔をされてしまい、
私は一瞬、真っ白になって咄嗟に何もできずにいた。
すると奥さんの方の先生が冷静に
 「ケガはない?」
と心配してくれて、
速やかに粉々になった大理石の破片を集めて処理してくれた。

 後から50万もの大理石だということを知り、
 「ごめんなさい!!!弁償します!」
と言うと、
 「大丈夫。こうゆう事もあるかもしれないとわかっていたし、
50万といっても、十年使ったし。確かに思い出はあるけど・・・。」

 私は先生達を、すごく尊敬していたし、大好きだったのに・・・
恩を仇で返してしまったショックで、これほど自己嫌悪したことはなかった。
ただひたすら謝り続け、本気で弁償を考え、必死になった。
でも先生は授業の時と変わらず、いつもの淡々とした口調で、
 「本当に弁償はいいから、自分を責めないで。
形あるものはいつか壊れるから。形のないモノの方が大切よ。
だから、私達は気にしないけど、奈々ちゃんが気にしてここに来れなくなることの方が問題よ。」

 その時の私は、パニックとショックと自己嫌悪で最悪な状態で、
そんな言葉も耳に入らず、
いっそのこと責められて弁償した方が気が楽だった。

 「弁償します!」
 「いいから。」
の繰り返しになり、その時は友達もいたし、
今日のところはひとまず帰ることになった。

 駅で友達と別れてからも、気持ちが治まり切れず、
駅のトイレでしばらく泣きじゃくっていた。
でもそんな事で解決しないのもわかっていたので、
もう一度、先生に電話を掛けて謝った。
先生は
 「いいのよ。・・・それよりあの後、主人と話し合ったんだけど
今はコース中だから、明日も生徒さん達は来るし、
いきなり新しいテーブルになっていたら、
みんなに聞かれるだろうから、正直に話した方がいいのか・・・
私達は新しいのを置けばいつかは忘れるけど、
奈々ちゃんはここに来る度に思い出すだろうし、
一番辛いのは奈々ちゃんの方よ。」
 「そんな・・・。・・・私に何かできることはありますか?」
 「じゃあ、私達を信頼して!奈々ちゃんが自分を責めないで、
落ち込まないでいてくれたら、それでいい。」
 先生は授業でよく教えて下さる言葉を使って、こう続けた。
 「奈々ちゃんが日常の小さな事でも、誰かに優しくできたら、
それが巡り巡って私達の所へ来るから、私に直接何かしなくていいから。」
そうだよ!奈々ちゃん!!と、電話の奥で、ご主人の声がした。

私は、
 「ごめんなさい・・・」
それしか言葉が見つからなかった。
先生は、
 「もう充分過ぎるくらい、伝わったから。
反省しない人だったら、その人の為に怒るけど・・・でもありがとう。」
ありがとう、なんて言って欲しくなかった。
私は、
 「先生にいつか、本当に心から『ありがとう』って言ってもらえるようなこと、いつか絶対にします!!!それで、プラスマイナス0に・・・」
 「いや、プラスにしてよ!もうその言葉だけでお腹いっぱいよ。
どんなに気にしないでって言われても、これから気を付ければいいって事よりも、今はまだ苦しいかもしれない。
だから、0時までは泣いたり落ち込んだりして、
0時過ぎたら『明日は明日』って思うようにね!じゃあ、又明日ね。」
と、言ってもらったけど、なかなかそうはいかず、
私は0時過ぎても泣いていた。

 明日行ったら、あのテーブルはどうなっているだろう?
他の人にも聞かれると思うし、どうしょう
・・・と考えがグルグルして眠れなかった。
 
 翌日、怖々と教室に入ると、驚いた。
パッと見は何事もなかったかのように、キレイに元通りだった!
そっと近寄って見てみると、石のボンドでくっ付けてあり、
ご主人の先生に聞くと、
 「昨日、徹夜で修復作業していて寝てないけど、元気だよ!」
と、明るく言ってくれた。私は、
 「すみませんでした。」
と謝ると
 「本当だよ!」
と言われて、思わず
 「昨日は眠れなくて、ずっと泣いていました。」
そしたら、
 「泣け泣け、もっと泣け〜〜!!!」
と笑顔で言われてしまい、
えー!?こんなに反省してるのに・・・と昨日とは真逆な気持ちになった。
先生は、
 「それが自分のチャレンジなんじゃない?
そうゆう事が起きた時に、どう対処をするか・・・」
 「でもあんなことしておいて、のうのうとしてられない。」
 「のうのうと、じゃなくて・・・」

 話の途中で、生徒さんが入って来てしまい、そのままになってしまった。
オーラソーマでは、二本目に選んだボトルをチャレンジボトルという。
別名ギフトボトルとも言って、この課題を乗り越えたら、
最高のギフトが待っている。
パラドックスな考え方で、
欠点やトラウマはその人ならではの特徴や経験なのだから、
それを生かすことが目的で、チャレンジしていくのが人生。
そのヒントを与えるのが、カラーボトル。
この先生の授業の時は奥さんと違って、
悩む生徒にはもっと悩めば?と言うし、
変わりたくなければ、そのままでいたら?・・・なんて言ったりする。

 しかし、机上で習ったことも、現実では感情が邪魔してなかなか受け入れられなかった。ましてやギフトに変えるなんて・・・。
 私の中の解決法は、弁償しか思い付かなかったし、
それでなかったことにしようとしていた。
何もしないより、その方が自分の気が済むからだったのかもしれない。

 でも冷静になってみれば、大理石は先生達のモノで、
先生達が一番どうして欲しいか、が優先すべき大事なことだったはず。
 その後、奥さんの方の先生と電話で話したら、
やはりコースが終わってからテーブルを新しくすることに決めたそう。
 私のせいなのに何もできない自分でいることに、
ただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そんな私に先生は、
 「奈々ちゃんは、できる限りの事はやってくれていたよ。
よくやった、って言ってあげて。
自分で言えなかったら、私が言ってあげるから。
・・・でも、不思議なんだけど、今回の事で前より奈々ちゃんが近くに感じる。
近くなった気がするよ。」
 この状況で、有り得ない感情だけど、私は嬉しい気持ちで複雑だった。


 それから何カ月か経ち、私が人物の写真を撮るのが好きだということが、他の生徒さんからご主人の耳に入り、
 「写真写りが悪いから、奈々ちゃんにPR用の写真を撮ってもらおうかな。」
と言われたので、早速撮影の日を約束した。
やっと恩返しができる、そう思ってはりきって行くと、
なんと先生はその日に予定を入れてしまったらしく、いなかった。

 奥さんは、
 「ごめんなさいね!あの人忘れっぽいから、よくあるのよ、こうゆうこと。
今度から、私に直接伝えてね!」
と、申し訳なさそうに謝られたけど、
私は笑ってしまった。あの先生らしいなぁ、と。


 その後、私は海外に行ったりしていたので、
写真を撮る約束は果たせないまま、今に至ってしまっている。

 オーラソーマで言うと、クールで冷静だけど、
的確で信頼できる『ブルー』の性質の奥さんと、
感情的でうっかり天然だけど、面白くて暖かい『黄色やオレンジ』のご主人。
 どちらかだけだったら、私も落ち込みっぱなしだったかもしれないけど、
二人が父親と母親のように補色同士だったからこそ、救われた。

 当時の私は、コースの再受講をしたり、教室に繰り返し通っていたけど、
オーラソーマが好きというよりは、先生達二人に習える事、
会う事の方が楽しみだったのかも。

 こんなふうに年を重ね、補い合えるパートナーがいたらいいなぁ、
と理想の未来を見ている気がして・・・。
 もしチャレンジを乗り越えて、こんなギフトが待っているとしたら!